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炎路を行く者 守り人作品集(上橋菜穂子)



「ひとつの国が他国にのみこまれていく裏側には、さまざまなものがうごめいている。
 きみには、おなじタルシュにしか見えない連中の内側にも、多くの異なった思惑がある。ヨゴ皇国の内側にも、もちろん、ある。…そういうものを、見てみたくないか」


『蒼路の旅人』でチャグムをさらったタルシュの鷹アラユタン・ヒュウゴ。
ヒュウゴはなぜ、自分の祖国を滅ぼした男に仕えることになったのか。
そして、バルサは、過酷な日々の中で、思春期をどう乗りこえていったのか。
題名のみ知られていた幻の作品「炎路の旅人」と、バルサの少女時代の断片「十五の我には」が収められた、「守り人」読者待望の作品集。



とうとう最後の「守り人」シリーズを読み終えてしまいましたー。
長年気になっていた壮大なこのシリーズ。
読み切った、という満足感と、読み終えてしまった、という僅かな寂しさ。
こういう気持ちにさせてくれる作品に出会えて良かった。

最後のこの作品は、「守り人」シリーズ本編の最終作『天と地の守り人』やチャグムが主人公の『蒼路の旅人』でキーマンとなったヒュウゴが主人公の中編。
彼はヨゴの国の人でありながら、自国を滅ぼしたタルシュ帝国の密偵となって働いている複雑なキャラクター。
一体何故、彼は敵の国のために働くのか?
本編を追っている時には、とにかくチャグムのこと、バルサのことが気になって、そこばかりに目がいっていました。
しかし考えてみれば、なんで彼はそういう選択をしたんだろう?
そういう疑問も湧きますよね。
答えは、この本の中にありました。

タルシュ帝国が大規模な領土拡大をかけて戦を仕掛ける。
そのターゲットに向けられたのが、チャグムの新ヨゴ皇国の元となったヨゴ国。
先祖は同じなので、国の有り方は似ています。
すなわち、帝は神である、という。
新ヨゴ皇国もきっと、チャグムがなにもしなければ、ヨゴ国と全く同じ末路を辿ったのだろうなあ。。。
帝を守る護衛隊は殲滅、タルシュのやり方として、武人そしてその家族は徹底的に皆殺し。
ヒュウゴは父の言葉に従い、母と妹の為逃亡のシュミレーションをしていたおかげで逃げることができます。
しかし逃亡に抵抗した母と妹は殺され、ヒュウゴ自身も深手を負う。
そんな中でヒュウゴを助けてくれたのが、ナユグを見る目を持つリュアンという少女。
チャグムと同じ目、なんですよねえ。
ヒュウゴがチャグムを気に掛ける理由が少しだけ分かったような…。
こういう話のやり取りしていたかなー。

ヨゴでは身分がしっかり分けられていて、上流武人階級に属していたヒュウゴと、下町の商人では身分に差があるようです。
既に守るべき帝もおらず、また武人として働いていた訳でもないヒュウゴは、生きていくために人に雇われ皿洗いをすることに。
いつかは誇り高き<帝の盾>となるはずの身だったヒュウゴからすれば、とんでもない転落人生。
しかも、ヨゴ国はタルシュに敗れはしたものの、下町の民の暮らしは以前とさほど変わらないのです。
もちろん税金や男子の徴兵、出入りするタルシュの国民らの変化はありますが、生活自体はさほど変わらない。
ヒュウゴが家族も住む家も、なにもかも失ったことに比べると、その違いは恐ろしいほど。
更に辛いのは、以前住んでいた家も、その周りも、何もかもがそのまま残っていたこと。
そしてそこには、新たにヨゴ国の武人という役職に就いたヨゴ人が暮らしている、ということ。
いっそ、戦争の跡があるとか更地になっている、という目に見える変化があればまだ心も納得がいくのに。
周りは何も変わらない。変わったのは自分を取り巻く環境だけ。
更に、彼を導く者が彼に言った言葉。
「ヨゴ皇国を滅ぼしたのは、ほんとうに、タルシュ軍なのか?」
この混乱に乗じて、王の首を取るのが自国の対立する人物である、という事もある、と。
自分の憎むべき相手さえ分からなくなる。
何が正しいのか、何が起こったから自分の身の上がこうなってしまったのかが分からない。
これはすごく辛いなあ…と思わずにはいられません。
戦争ってひと言で表すことができるものではないのだと、つくづく思います。
どの国がどういう理由でこの国に戦争を仕掛け、いつ始まり結果どちらの国が勝利して戦争が終結した。
戦争ってよく見るとそういう風に明確に表せられることってそんなにない。
もっと複雑でどろどろした内情があるように思えます。

ヒュウゴの生活に変化を与えたのは一人の人物。
彼の手を取って敵国の中に身を投じるのは、なかなか決心のつくことではありません。
人生全てを賭けるくらいの大博打。
こういう大きな決断をすることが出来る人ってすごいなあと、最近つくづく思うのです(笑)

チャグムやバルサにとって心安らぐ場所がトロガイとタンダの家のように。
ヒュウゴにとっても、ホームとなる、思い返す“家”というものがあるのですね。
そういうのがある人とない人では、心の持ちようもあり方も違うんだろうな、と思います。
ヒュウゴはきっとまだ出口の見えない暗がりの中。
タルシュの密偵、ラウル王子の傍近くにまで重用されていても尚、そうなんでしょう。
彼にも早く平穏が訪れて欲しい。せめて、心だけでも。
そう思わずにはいられないくらい、彼の過去は過酷です。

バルサもまた、そういう過去を持つ一人。
バルサの過去は一貫してジグロへの贖罪と葛藤に溢れています。
しかし私たち読者から見ると、ジグロも不器用なりにバルサをとても大事に思っていることが見てとれます。
『流れ行く者』の話の中で、ジグロが書物好きであるという事が書かれていて、密かに親近感を持ちましたw
どういう本を好むのかちょっと気になっていたのですが、今回何を読んでいるのかが明かされました。
意外な事に、詩集、でした。
その中の一句を読み上げるシーン。
「十五の我には 見えざりし、弓のゆがみと 矢のゆがみ、
二十の我の この目には、なんなく見える ふしぎさよ」
十五の頃には見えなかった、気づかなかったことに、二十歳になって思い返すと気づくことがある。
同じ状況に陥っても、二十歳の頃には対処できるようになっている。
そういう詩なのかな、と思います。
これはきっと、誰しも経験していること、なんでしょうね。
私だって、十五歳のころと二十歳くらいのことってきっと全然違う。
考え方ひとつとっても。
更に更にもっと年齢を重ねると、より視界は広がったような気がします(笑)
これは年齢を重ねなかったら自分にはなかった変化だと思うので、そういう意味では年を重ねるって悪くないです。
自分の十五歳のころって、色々こじらせていたし、意固地だったなーと思うので(笑)
ジグロにも、そういう十五歳の頃ってあったのかなあ。
そういう意味では、十五歳くらいのジグロと、バルサのお父さんのお話とか読んでみたいなあw

上橋先生のあとがきによると、この話、特に「炎路の旅人」は、『蒼路の旅人』前に出来上がった物語だそう。
しかし、『蒼路の旅人』にて、チャグムの前に現れる彼の素性がこの話によって読者に見えてしまうと、「守り人シリーズ」の命が損なわれてしまう。
それゆえ、帯に予告まで載ったものの、このお話はお蔵入りとなってしまったのだそう。
“幻の物語”。
読者としては歯がゆい、でもそう説明されたら「読みたい!」と声高に叫ぶこともできない。
なんとも罪作りなお話です。
が、バルサの短編と併せて一冊にすることで、なんとか日の目を見ることが出来た。
なんだかヒュウゴらしい出版の仕方だな、と思います。

これで今出版されている「守り人」シリーズは全て読了!
NHKのドラマを見て熱に沸き、再読含め読んできました。
長年愛されるだけあって、一度その世界に引き込まれたら止まらない!
そんな読書の醍醐味、存分に味わうことができました。
同じ作者さんの本だと、他には『獣の奏者』が気になっているのですが。
うーん、他にも今年中に読みたいと思っているシリーズがいくつかあるので、上橋先生の作品はしばし待機かなあ。
でもいつか絶対に読む! と決めました。
このシリーズの感想にお付き合いくださいまして、ありがとうございました!
そして上橋先生、バルサやチャグムを始め、素敵なキャラクター、そして世界をありがとうございます!!
今から来年のNHKドラマも楽しみですw


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